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小説 フォレスト中小企業診断士事務所~伴走者たちの協奏曲~第57話

第57話: 広がる波紋、それぞれの思惑


アクアヘアのクラウドファンディングは、まさに「反撃の狼煙」となった。SNSを通じて拡散されたプロジェクトは、予想をはるかに上回るペースで支援を集めていた。特に、莉子やスタッフたちが技術への情熱や店への想いを語る動画は、多くの人々の心を打ち、共感の輪を広げていた。「アクアヘアの皆さんが、こんなに頑張っているなんて知らなかった」「私もこのお店を応援したい!」といったコメントが殺到し、支援額は瞬く間に目標金額に近づいていった。


フォレスト中小企業診断士事務所では、連日、アクアヘアのクラウドファンディングの進捗状況が報告されていた。

「現在の支援額は、目標の80%を超えました!」エリカが興奮気味に報告する。「このペースなら、あと数日で達成できるはずです!」

タカシも笑顔で頷く。「当初は、単なる資金調達の手段として捉えていましたが、これほどまでに社会的な反響があるとは…アクアヘアのブランド価値が飛躍的に高まっていますね」

小池は、安堵の表情を浮かべつつも、まだ気を緩めてはいなかった。

「堀田が、この状況を黙って見ているはずがない。彼らは、必ず次の手を打ってくるだろう」


小池の懸念通り、城南開発の堀田は、アクアヘアの予想外の動きに苛立ちを隠せずにいた。クラウドファンディングという、彼には理解しがたい現代的な手法が、これほどまでに世論を動かすとは想定していなかったのだ。

「なぜだ…なぜ、SNSの小さな動きが、これほどまでに大きな力を持つ…!」堀田は、報告書を握りつぶすように机に置いた。「あの女のカリスマ性か…?だが、目に見えない影響力など、所詮は幻想だ…」

堀田は、部下に指示を出した。「あの美容室の、SNSでの動きを徹底的に監視しろ。何か、不正な点はないか。支援者の中に、不審な人物はいないか。あらゆる角度から、アラを探し出せ」

堀田は、SNSやクラウドファンディングといった現代的な手法を理解できなかった。彼の頭の中には、常に「数字」と「契約」、そして「物理的な圧力」しかなかったのだ。彼の持つ冷徹な論理は、世論という感情的な波には通用しない。それが、堀田の最大の弱点だった。


このアクアヘアの奮闘は、地域経済を巡る水面下の攻防に関わる様々な人物の目に留まることになる。

信用金庫の田所支店長は、自身の支店長室で、アクアヘアのクラウドファンディングに関するニュース記事を読んでいた。そこには、莉子の笑顔と、彼女を支えるスタッフたちの姿が写し出されている。「駅前の人気美容室、立ち退き危機に直面!クラウドファンディングで街の応援を求める」という見出しが、彼の目に飛び込んできた。

田所は、眉間に皺を寄せた。かつて自身が関与した地域の開発計画そして光永精工への融資に難色を示した背景には、城南開発、そして信用金庫本部の斎藤理事の意向があった。彼らの再開発計画が、地元の中小企業に大きな影響を与えていることを、田所は肌で感じていた。

「まさか、ここまで大きな動きになるとは…」田所は、記事から目を離せない。アクアヘアの置かれた状況は、光永精工と酷似している。そして、その裏には、再開発という巨大な影が潜んでいる。

彼の脳裏には、若き日の小池の熱意が蘇っていた。「リスクだけを見ていては、地域は廃れる」…あの時の小池の言葉が、今、重く響く。田所は自身の「リスク回避優先」の姿勢に、改めて疑問を抱き始めていた。


一方、信用金庫本部では、斎藤理事がアクアヘアのクラウドファンディングの動向を注視していた。彼は、堀田から定期的に報告を受けていたが、SNSの動向やクラウドファンディングの「熱狂」を理解できていなかった。

「たかが美容室が、これほどまでに騒ぎ立てるとは…」斎藤理事は、不快感を露わにした。

「小さな感情論に流されて、再開発計画を遅らせるようなことはあってはならない」

しかし、クラウドファンディングの支援額が着実に伸びていることは、斎藤理事にとっても無視できない事実だった。もし、この動きが世論を巻き込み、再開発計画に大きな影響を与えることになれば、彼の立場も危うくなる。斎藤理事は、金融庁の監督官との関係性を思い起こし、慎重な対応を迫られていた。


城南開発の白波社長は、堀田からの報告を受け、不敵な笑みを浮かべた。

「面白い。たかが美容室が、これほどまでに抵抗するとはな」白波は、アクアヘアのSNSアカウントを眺めながら、不敵な笑みを浮かべる。「だが、所詮は感情論。我々の巨大な計画の前には、無力だ。むしろ、この騒ぎを利用して、我々の再開発計画の正当性をアピールできるかもしれない」


美容室アクアヘアの「再出発」をかけた戦いは、一美容室の問題を超え、街の未来、そして権力と世論の対立を巡る戦いの序章となる。莉子のカリスマ性、スタッフの絆、フォレスト事務所の伴走支援、そしてクラウドファンディングという現代的な武器。それら全てが、巨大な力の思惑と交錯し、物語は、さらなる深みへと進んでいく。冬の風が吹き荒れる中、街の片隅で始まった小さな反撃の狼煙は、やがて、大きな嵐を巻き起こすことになる。


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