小説 第38話「志を共に - フォレスト事務所設立への道」
- 小池 俊介
- 3 日前
- 読了時間: 4分

第38話「志を共に - フォレスト事務所設立への道」
資格スクールでの出会いから数年後、森診断士は思いもよらない形で教え子である小池と再会することになる。地元信用金庫が中小企業支援のために新たに設置した専門家派遣スキームに、常駐の外部専門家として森が招聘されたのだ。森にとって、小池との再会は単なる偶然ではなく、運命的なものに感じられた。
小池の信用金庫での役割は、中小企業支援の最前線に立つものであった。支店を巡回し、取引先企業の経営改善や資金繰りの相談に応じる業務は、信金マンとしての枠を超えた専門性が求められる仕事だった。
「森先生がここに来てくださるなんて思ってもみませんでした。」
診断士試験受験生時代よりも少しやつれた小池の笑顔に、森は信金内での厳しい環境を察した。だが、小池の目には熱意が宿っていた。伴走支援を信じ、実現しようとする彼の姿は、森にとって誇らしいものだった。
「小池さん、まずは一緒に現場を回ってみましょう。」
森はそう言い、小池と二人三脚で企業支援に取り組む日々を始めた。
ある日、二人は地元の製造業者を訪れた。創業50年を超える老舗だったが、経営者は資金繰りや設備更新の負担に悩み、限界を感じている様子だった。
「具体的な数字で現状を見てみましょう。改善の糸口は必ずあります。」
小池の提案は、まず経営者に現状を「見える化」させることだった。支援を押し付けるのではなく、経営者自身が課題を理解し、解決策を考えられるように寄り添う姿勢に、森は感銘を受けた。
「小池さん、あなたのこうした伴走型支援は、これからの中小企業支援のモデルになりますね。」
森がそう語ると、小池は少し照れながらも「まだまだです」と返した。その謙虚さこそが、小池の支援が多くの経営者に信頼される理由だと森は感じた。
だが、伴走支援に全力を注ぐ小池の体は、次第に限界に近づいていた。連日の訪問や書類作成、内部調整に追われ、朝から晩まで休む間もなく働く日々が続いていた。ある日、森は小池の顔色が優れないことに気づいた。
「小池さん、無理をしすぎではありませんか?」
森の問いかけに、小池は短く答えた。「経営者の方々があれだけ頑張っておられるのに、僕が手を抜くわけにはいきません。」
その言葉に森は胸が熱くなった一方で、小池の限界が近いことを感じていた。
数カ月後、小池はついに体調を崩し、休養を余儀なくされた。その間、森は彼を見舞い、静かに励ました。
「白衣の天使…ならぬ“森の天使”になりたいところですが、コーヒーでも買ってきましょうか?…冗談はさておき、小池さん、あなたの役割はこの信金だけに留まるものではありません。日本全国、あなたの支援を必要としている経営者がたくさんいます。焦らずに、自分のペースで進んでいきましょう。」
森の言葉は、小池の心を軽くした。
そしてその数カ月後、小池は信金を退職するという大きな決断を下した。
信金を退職した小池は、新たな挑戦の場として沖縄を選んだ。ベンチャー企業支援プロジェクトの専門家として、多くの起業家やスタートアップ企業と向き合い、実績を積み上げていった。
その活躍を耳にするたび、森は心の中で彼を応援していた。
そして、ある日、森は小池に電話をかけた。
「小池さん、そろそろ次のステージを考えてみませんか?」
小池は少し驚いた様子で答えた。「次のステージ、ですか?」
森は続けた。「中小企業支援をもっと深く、もっと広く展開する場を作りましょう。あなたとなら、それができると確信しています。」
小池はその言葉に心を動かされた。そして2年後、小池は沖縄から地元に戻り、森と共に新たな挑戦を始める決意を固めた。

2021年、森と小池は「フォレスト中小企業診断士事務所」を設立した。事務所の名前には、森の「フォレスト」に「成長」を意味する願いが込められていた。
「一つの芽が大きな木になり、森となる。支援する企業と共に成長する場所にしたい。」
森のその言葉に、小池は深く頷いた。
地元のターミナル駅から私鉄で1駅先の好立地の物件に事務所を設置した。
事務所の理念は、伴走型支援を軸に、中小企業と地域社会を繋ぐ架け橋となることだった。二人の信念が込められたこの場所は、後に多くの中小企業を支える拠点となる。
志を共に
「伴走とは、寄り添うだけでなく、一緒に成長すること。」
森と小池が掲げたこの理念は、フォレスト中小企業診断士事務所の活動を象徴するものとなった。彼らの支援を受けた企業は次々と成果を上げ、地域経済の活性化に貢献していった。
「小池さん、これからも一緒に日本の中小企業を元気にしていきましょう。」
森のその言葉に、小池は力強く頷いた。二人の挑戦は、まだ始まったばかりだった。
Comments