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小説 第37話「教えることで学ぶ - 中小企業診断士としての使命感」



第37話「教えることで学ぶ - 中小企業診断士としての使命感」

森が中小企業診断士の資格を取得したのは、電機系販売会社に転職してから数年後のことだった。大規模なシステムプロジェクトに携わる中で、企業経営の本質に迫りたいという思いが強まり、業務の合間を縫って勉強を続けた。診断士の資格を取得すると、職場での評価が上がっただけでなく、周囲からの信頼も深まった。


その後、副業として資格スクールの講師を始めたのは、自分の学びを他者に共有したいという純粋な思いからだった。しかし、この副業が森の人生に新たな視点をもたらすことになる。


初めて教壇に立った日のことを森は今でも覚えている。受講生たちの真剣な眼差しが、彼を少し緊張させた。

「中小企業診断士の役割は、経営者の悩みに寄り添い、その解決策を共に探ることです。」

その言葉を語りながら、森は自分自身に問いかけていた。「自分は本当にその役割を果たせているだろうか?」と。講義を通じて、受講生たちに知識を伝える一方で、森自身が自分の在り方を見つめ直す場になっていった。


ある受講生が講義後に質問をしに来た。

「森先生、私は父の代から続く町工場を継ぐ予定です。でも、どう経営を改善したらいいのか分かりません。」

真剣な表情で相談するその姿に、森はかつて大企業のプロジェクトで見た中小企業の現場を思い出した。自分が得た知識や経験を活かして、このような人々の助けになりたい――その思いが、より一層強くなった。


講師を続けるうちに、森のもとには多くの教え子が集まるようになった。彼らの多くは中小企業の後継者や地域の課題解決に取り組む若者だった。

ある日の講義、プロジェクターの電源を入れ忘れてスクリーンが真っ暗。「あ…画面が映らない。誰か私の“ITスキル”に助けを…」とつぶやき、受講生たちは一斉にクスり。

「森先生、システムが人を支えるって言うけど先生が一番システムに振り回されてません?(苦笑)」

講師と受講生ではあるが、先生と生徒という立場を超える力を森はもっており、これが「伴走力」の一つにつながっていく。


「森先生の講義を受けて、中小企業診断士を目指す決意が固まりました。」

そう言ってくれた教え子の一人が、小池だった。彼は若くして金融機関で頭角を現しながらも、中小企業診断士として地域の企業を支えることを夢見ていた。小池の情熱に触れた森は、彼を特別に目をかけるようになった。

「先生、経営者の悩みってどうやって聞けばいいんですか?」

小池が何度も熱心に質問してくる姿に、森はかつての自分を重ねた。そして、小池が将来、中小企業支援の現場で大きな役割を果たすだろうと直感的に感じていた。



資格スクールの講師を続ける一方で、森は県の中小企業診断士業界団体のトップとしても活動していた。この役割を通じて、地域の診断士たちと連携しながら、数多くの中小企業支援に取り組んだ。

「地域の中小企業を元気にするためには、診断士同士のネットワークが重要です。」

森が提唱したこの理念は、多くの診断士たちから賛同を得た。特に、創業支援や経営改善の分野では、地域全体での取り組みが求められることを実感していた。

森は地域の商工会議所や商工会と連携し、創業スクールの設立や補助金活用セミナーを実現させた。その中で、多くの経営者や後継者が夢を語り、課題に向き合う姿を目の当たりにし、森はますます中小企業支援の重要性を感じていった。


教える中で、森は自分自身の支援スタイルについても考えを深めていった。診断士の役割は「伴走」である――そう確信したのは、ある中小企業経営者との出会いがきっかけだった。

その経営者は、資金繰りに行き詰まり、従業員の解雇を考えていた。森は診断士の仲間とともに、事業計画の見直しを提案し、金融機関との交渉をサポートした。最初は半信半疑だった経営者が、最終的に再建の道を見出した姿に、森は深い感動を覚えた。

「寄り添いながら共に解決策を探る――それが診断士の本当の役割なんだ。」

この考えが、後にフォレスト中小企業診断士事務所を設立する理念の基盤となる。


講師として活動する中で、森は多くの教え子たちと出会い、彼らから学ぶことも多かった。

「教えることで、自分がどれだけ現場を理解していなかったかを気づかされることがある。」

森の言葉には謙虚さが宿っていた。資格取得後に得た知識はあくまで基盤であり、実践の中で学び続ける姿勢が必要だと教え子たちに説いた。そして、それを自ら実践していた。


教え子たちとのつながりや業界団体での経験を通じて、森は地域の中小企業支援に深く携わるようになった。その活動は、後にフォレスト中小企業診断士事務所の設立につながり、伴走支援という理念が形になる礎を築いていく。

「一人では解決できない課題も、皆で力を合わせれば乗り越えられる。」

森の言葉は、そのまま彼の支援者としての姿勢を象徴していた。そして、それが多くの教え子たちに受け継がれていくのである。


 
 
 

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