小説 フォレスト中小企業診断士事務所〜伴走者たちの協奏曲〜第24話

第24話「老舗精肉店の新しい未来 - 伴走が紡ぐ絆」

冬の朝、大正精肉店の店先に澄んだ青空が広がる中、開店準備をする勝氏の姿があった。気温は低いが、勝氏の手は温かく、心に充実感が宿っている。その表情には自信と穏やかな余裕が感じられた。「ここまで来られるなんて思ってもみなかったな」と胸の内で呟く。

この1年、大正精肉店は大きな変化を遂げた。IFFA金賞受賞、テレビ番組での特集、オンラインショップの成功など、多くの成果を上げてきたが、それらは一朝一夕で得られたものではない。家族とフォレスト中小企業診断士事務所のメンバー、さらに金融機関などの支援者たちが、それぞれ見えないところで積み重ねた努力の結晶だった。

その日は特別な日だった。これまでの歩みを振り返り、次の未来へ向けた一歩を話し合うための会議が行われる。家族、フォレスト事務所のメンバー、保証協会やメインバンクの担当者が一堂に会し、このプロジェクトの成功を分かち合う場だ。

勝氏の見えない挑戦 - 自分を変える努力

「最初は、全部無理だと思ってたんです。」勝氏がぽつりと呟いた。

彼の目に映るのは、かつて変化を恐れ、守りの経営に徹していた自分の姿だった。長年の習慣を変えること、取引先に価格交渉を持ちかけること、新しい設備を導入すること―慣れ親しんだ経営スタイルから抜け出すため、全てが初めての挑戦だった。

「でも、小池先生が『まずは考えてみましょう』と言ってくれたおかげで、一歩ずつ進める気になったんです。」勝氏はその一言に何度も助けられたという。

最初の価格交渉の場では、慣れない交渉に戸惑い、声が震えた。それでも相見積もりを取得し、妥当な価格を確認することで、取引先と信頼関係を維持しつつコスト削減を実現した。

「あの一歩がなかったら、今の俺はいなかったかもしれない」と勝氏は静かに語る。その言葉に家族全員が頷き、小池診断士も「勝さん自身が変わる決意をしてくださったからこそ、全てが動き出したんです」と微笑んだ。

雅子の支え - 家計から経理のプロへ

家族を支える柱である雅子もまた、大きな挑戦を続けていた。「私なんてずっと家計簿を付けているだけで、経理なんて分からなかったの」と彼女は照れくさそうに話す。しかし、経理を任されるようになり、彼女は日々の収支を詳細に記録し、月次収支を見える化を進めた。

その裏には、タカシの地道なサポートがあった。「数字の見方なんて初めてのことばかりで、何度もタカシ先生に質問しました。」と雅子。

「勝さんの事業の成功には雅子さんの努力が欠かせませんでしたよ」とタカシが応じる。「毎月の数字を見て、次の目標を考えることができたのは、雅子さんの努力があったからです。」

彼女は店頭にも立ち続け、お客様の声を細かく記録し、データとして反映させた。「あの時のお客様がまた来てくれると、何より嬉しいんです」と語る雅子の瞳には、家族経営の温かさが宿っていた。

架純の影の努力 - SNSから顧客の輪を広げる

一方で、SNS戦略を担った架純は、家族が気づかないところで大きな負担を引き受けていた。「毎日の投稿、コメントの返信、写真や動画の撮影、それにキャンペーンの企画も全部自分でやっていました。」

架純の取り組みの中で、特に大きな反響を呼んだのは、IFFA金賞受賞後に行ったフォロー＆リツイートキャンペーンだった。新規フォロワーが増えただけでなく、投稿に寄せられる口コミが販促効果を生む循環を生み出した。

「ただ、最初の頃は、何を投稿すればいいのか分からず、悩んでばかりでした。」そんな彼女にアドバイスをくれたのがエリカだった。「お店の魅力を素直に伝えればいいんですよ。肩の力を抜いて、家族の日常や商品の裏話も投稿してみてください。」

その言葉に背中を押され、架純は自然体で投稿を続けた。その結果、SNSを通じてお店のファンが増え、オンラインショップの売上にもつながっていった。「エリカさんがいてくれて、本当に助かりました」と架純は笑顔で話す。

利夫の奮闘 - 厨房からの挑戦

「俺はずっと厨房にいて、経営なんて全然分かんなかったけど、居酒屋部門をどうにかしたいって気持ちでやってきた。」利夫は、食材のロス削減や新メニューの開発を通じて、原価率の改善に取り組んできた。

彼の努力の象徴は、新たに開発した「牛すじ煮込み」だった。「兄貴が捨てるような食材でも、俺が料理すれば立派なメニューになるって証明してやりたかったんだ。」その想いは見事に実を結び、居酒屋部門の収益向上に貢献した。

さらに、厨房スタッフとの連携も強化し、効率的なオペレーションを実現。「俺の力だけじゃなく、みんなでやったからここまで来られたんだよ」と利夫は語る。

フォレスト事務所の貢献

この成功を支えたフォレスト事務所のメンバーも、各々が影で多大な努力を重ねていた。森診断士は常に全体を見渡し、冷静な判断で家族を導いた。「皆さんの強みを活かすために、どのタイミングで何をすべきかを考えるのが私の役目でした。」

タカシは家族一人ひとりに寄り添い、数字やデータを基にした支援を続けた。「時には厳しいことも言いましたが、それが皆さんを支えたなら嬉しいです。」

エリカは、家族が見えない部分を徹底的にサポートした。「皆さんが輝けるように、私は裏方として全力を尽くしました。」

金融機関の支援

会議の最後、保証協会の担当者が立ち上がり、小池診断士に感謝を伝えた。「最初に相談を受けた時、この案件がここまで成果を上げるとは正直思いませんでした。小池先生の的確な計画とフォローがあったからこそ、保証協会としても安心して支援することができました。」

続いてメインバンクの担当者も話し出した。「実を言うと、最初は融資の判断に悩んでいました。ですが、フォレスト事務所の皆さんが詳細な計画書を作成し、事業の将来性を丁寧に説明してくださったおかげで、自信を持ってサポートに踏み切ることができました。本当にありがとうございました。」

小池診断士は静かに微笑みながら、感謝の言葉を受け止めた。「私たちができることは、経営者の方が持つ力を引き出すお手伝いをすることだけです。全ては、勝さんとご家族の努力の賜物です。」

その言葉に、勝氏は少し照れたように頭を掻きながら「いやいや、先生方がいなかったら、ここまでやれなかったよ」と答えた。

最後に、小池診断士が語った。「伴走とは、ただ道を教えるだけではなく、共に歩き、悩み、一緒に考えることです。皆さんが自ら進む意思を持ってくださったからこそ、この成功があるのです。」

未来へ繋がる挑戦

会議終了後、家族と支援者たちは店先で記念写真を撮った。背景には「大正精肉店」の看板と澄み渡る冬の空が広がる。

「ここまで来られたのは、家族と先生たちのおかげだ。これからも一緒に次の挑戦をしていこう。」勝氏のその言葉に、家族もフォレスト事務所のメンバーも力強く頷いた。

大正精肉店の物語はここで一区切りを迎えたが、それは終わりではなく、未来への新たな出発点である。「伴走」という支援の形で紡がれた絆は、次の世代へと引き継がれ、さらなる成長を支える原動力となるだろう。