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小説 フォレスト中小企業診断士事務所〜伴走者たちの協奏曲〜第26話



第26話「資格への決意 - 中小企業診断士を目指して」

小池が信用金庫に入社してから7年目の春、異動の辞令が下った。新しい配属先は大型基幹店舗。小池は融資係長として、新しい役割を担うことになった。部下の育成や、支店全体の融資案件のサポートを行う立場だ。


「ここでしっかり結果を出さなければ、次はない。」そう心に決めた小池は、業務に没頭した。だが、ここで経験する出来事は、小池にとって喜びと苦悩の両方をもたらすことになる。


基幹店舗では、融資案件の規模も責任も増した。ある日、地元の人気居酒屋店が新たな出店資金の相談に訪れた。店主が切り盛りするその店はピークタイムには連日満席となり、将来性があると評判だったが、帳簿の管理は杜撰で、いわゆる「どんぶり勘定」の状態だった。


「大将、帳簿を見る限り、どこにいくら使っているか分からないと、この規模での融資は難しいですよ。」小池は店主に率直に伝えた。


「でも、羽振りの良い城南開発の若い子たちが毎日のように来てくれてこんなに売れてるんですよ。お金を借りられると思ってたんですけど…。」店主は困った表情を浮かべた。





小池は、まず現状を数字で把握するところから始めるべきだと考えた。食材の仕入れ、棚卸し、人件費――どこにいくら使っているのかを整理するため、家計簿感覚で簡単な収支表を作成する方法を提案した。

その結果、この居酒屋店は適切なコスト管理を行えるようになり、数ヶ月後には融資の条件をクリア。新店舗の開業を実現させた。


「ありがとう、小池さんのおかげで一歩踏み出せたよ。本当は飲みに来てほしいんだけど、小池さん真面目だしな、そういうわけにいかねえもんな。」

店主のその言葉に、小池は胸が熱くなった。経営者に寄り添い、具体的な改善策を提案することで成果を出す。そして信金マンとしての関係性を超えることができる。――その手応えを改めて強く感じた瞬間だった。


しかし、小池の融資係長としての業務は順風満帆ではなかった。着任間もない頃、渡辺木工所の資金繰りが破綻し、倒産する事態に直面したのだ。


渡辺木工所は、前任の係長から引き継いだ顧客だった。親から会社を引き継いだばかりの渡辺社長は、50代前半の穏やかな人柄で、高校生の娘を男手一つで育てていた。小池は初めての面談で、優しい笑顔が印象的な渡辺社長に「資金繰りが厳しいようですね。一緒に解決策を考えましょう」と声をかけた。


だが、渡辺社長からの相談はほとんどなかった。先代から引き継いだ借入金の負担が重く、やがて木工所は倒産してしまう。

「もっと早く気づけていたら、何かできたんじゃないか。」小池は自責の念に駆られた。債権者としての立場に縛られ、経営者の悩みに深く入り込むことの難しさを痛感した出来事だった。


渡辺木工所の倒産をきっかけに、小池は改めて考えた。「自分には、経営者を救うための知識やスキルが足りない。」

中小企業診断士――この資格なら、経営に悩む中小企業に具体的なサポートができるのではないか。そう思った小池は、本格的に資格取得を目指す決意を固めた。


平日は朝4時半に起床し、出勤前に2時間の勉強時間を確保した。週末には資格スクールに通い、講義を受けた。だが、仕事との両立は想像以上に厳しかった。

「本当に合格できるのか…。」疲れ果てた夜、何度も弱気になることがあった。それでも、小池を支えたのは、「経営者に寄り添える支援者になりたい」という信念だった。


資格スクールで、小池は一人の熱心な講師に出会う。後にフォレスト中小企業診断士事務所を共に立ち上げることになる、森診断士だ。

森の講義は分かりやすく、受講生たちからの評判も高かった。「難しい内容ほど、分かりやすく伝える工夫が必要なんです」と語る森は、講義の後もボランティアで勉強会を開き、受講生たちと議論を重ねた。


小池もその勉強会に参加し、森と議論を交わした。森の姿勢は、小池にとって大きな刺激だった。「自分もこんな風に、経営者の力になれる存在になりたい。」

森との出会いは、小池の診断士としての道を切り拓く重要な出会いとなった。


試験本番の日、小池はこれまでの努力をすべて答案用紙にぶつけた。そして数ヶ月後、合格の知らせが届いた時、彼は声にならない喜びを噛みしめた。

「これで、経営者に本当の意味で寄り添える支援ができる。」


中小企業診断士としての第一歩を踏み出した小池。その背景には、居酒屋店の成功や渡辺木工所の倒産といった経験が刻まれていた。それらの出来事が、小池を支援者として成長させたのだ。

小池の物語はまだ始まったばかり。彼の新たな挑戦が、多くの中小企業に希望をもたらす未来への道を切り拓いていく。


 
 
 

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