小説 第35話「挫折と新たな道 - 家族と共に再出発」
- 小池 俊介
- 4月25日
- 読了時間: 4分

第35話「挫折と新たな道 - 家族と共に再出発」
冬の冷たい風が吹き抜ける朝、渡辺木工所の閉業を知らせる看板が掲げられた。その光景を前に、エリカは言い知れぬ喪失感に襲われた。
父の奮闘もむなしく、渡辺木工所は倒産した。
「私がもっと早く学んで、何かできていれば…。」
専門学校で学んだWEBデザインやマーケティングのスキルを活かす機会がないまま、家業が幕を閉じたことは、エリカにとって深い挫折感をもたらした。
父である渡辺もまた、表情には出さなかったが、長年続けてきた木工所を閉じる決断にどれだけの葛藤があったかは、娘として痛いほど分かっていた。
渡辺木工所には保証協会付き融資とプロパー融資が残っており、倒産後の処理は複雑を極めた。エリカにとって金融機関は、それまで「怖い存在」というイメージしかなかった。けれど、父が話してくれた小池やタカシという信用金庫の職員の存在は、少しその印象を和らげた。
「お父さん、金融機関の人ってそんなに親身になってくれるものなの?」
そう尋ねるエリカに、渡辺はやはり苦しい胸の内を見せず、微笑みながらこう答えた。
「小池さんもタカシさんも、本当に真摯に向き合ってくれたよ。『生活を守ることが最優先です』って言ってくれてね。その言葉にどれだけ救われたことか。」
父の話を聞くうちに、エリカは初めて「金融機関の役割」というものを考え始めた。木工所を支えるための提案ができる人がいたなら、自分が学んできたスキルにも何かできることがあったのではないか――そう思うようになっていった。
倒産処理が進む中、父が時折語っていた「小池さん」の名前がエリカの中に残った。独立して個人開業しているらしいと父から聞き、その後、エリカはインターネットで「小池中小企業診断士」の名前を検索した。
「フォレスト中小企業診断士事務所」――検索結果に表示されたホームページには、地域の中小企業を支援するための熱い思いが綴られていた。
「伴走支援を通じて、地域の中小企業を元気にしたい。」
その言葉を読んだ瞬間、エリカの胸に灯ったものがあった。
「この人なら、私が感じてきた想いを分かってくれるかもしれない。」
エリカは無意識のうちに、リンク先のインスタグラムのページをフォローしていた。

渡辺木工所の倒産処理が一段落した頃、渡辺は地元の家具修理業者に職人として雇われることが決まった。長年の技術が評価され、再び仕事に打ち込むことができる環境を得た父の姿に、エリカは安堵を覚えた。
「これでまた、お父さんの得意なことが活かせるね。」
その言葉に渡辺は微笑みながら答えた。
「エリカのおかげだよ。こうして支えてくれて、本当にありがとう。」
父との会話を通じて、エリカは自分の進むべき道を考え始めていた。自分の学びを無駄にせず、地域の中小企業に貢献する方法はないだろうか。
エリカが何気なくスマホをスクロールしていたSNSに地域で頑張る美容院の取り組みが表示された。数々のコンテストに入賞し、カリスマ美容師として活躍する姿に目を奪われた。
その一方、地元有力企業がスポンサーとなっているローカルテレビでは、その有力企業が大型投資を行って地域を活性化させる再開発について特集が流れている。
「WEBやSNSで情報発信を学んで必要な人に情報を届けることができれば、小さな美容室や食堂でも大きな企業とも戦えるのかもしれない。」
エリカは父の倒産を“他人事じゃない”と痛感すると同時に、SNSが小さな力を大きく変えるかもしれないと希望を感じ始めた。
父の生活が落ち着きを取り戻しつつある中、エリカは次の一歩を踏み出すことを決めた。それは、自分が学んできたWEBデザインやマーケティングのスキルを活かし、地域の中小企業を支える仕事を探すことだった。
その中で再び頭をよぎったのは、小池診断士のホームページに書かれていた「伴走支援」という言葉だった。
「一緒に歩むことで、本当に力になる支援ができるんだ。」
その理念に強く共感したエリカは、小池診断士に直接連絡を取ることを決意した。
エリカは、問い合わせフォームにこう書き込んだ。
「初めまして。渡辺木工所の渡辺エリカと申します。以前、父がお世話になったと聞きました。私は現在、地域の中小企業をWEBやマーケティングの分野で支援したいと考えています。ぜひ、お話を伺えれば幸いです。」
メールを送信した後、エリカは画面を閉じ、深呼吸をした。これが新たな一歩になるかもしれない――そう思うと、不思議と緊張よりも希望が心を満たしていた。
エリカにとって、木工所の倒産は辛い経験だった。しかし、それがあったからこそ、彼女は自分の学びを活かし、地域の中小企業に寄り添う仕事がしたいという思いを抱くようになった。
そして、その道の先にいる小池診断士との出会いが、エリカの人生を大きく変えていくことになる。
「お父さんの努力を無駄にしないように、私も頑張るから。」
エリカの目には、新たな未来に向けた強い意志が宿っていた。
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