小説 第34話「夢と現実の狭間で - 夜間学校への挑戦」
- 小池 俊介
- 4月22日
- 読了時間: 4分

第34話「夢と現実の狭間で - 夜間学校への挑戦」
エリカの1日は忙しくも充実していた。昼間は地元の食品加工会社で働き、夜は専門学校でWEBデザインを学ぶ生活が始まったのだ。
「働きながら学ぶって、思ったよりも大変だな…。」
エリカはため息をつきながらも、専門学校の課題に取り組む手を止めなかった。彼女には、明確な目的があったからだ。それは父の木工所を支えるため、自分のスキルを磨くことだった。
エリカが通う専門学校は、地元の駅前にある小さな学校だった。講師は現役のWEBデザイナーで、課題も実践的だった。
「まずは、自分の興味のあるテーマで1ページのサイトを作ってみましょう。」
講師のその一言に、エリカは迷わず「渡辺木工所」をテーマに選んだ。
「木工所を知ってもらうためのサイトを作りたいんです。」
エリカの熱意が伝わったのか、講師は興味深そうに頷いた。
作業はゼロからのスタートだった。HTMLやCSSの基本を学び、画像編集ソフトの使い方に慣れるまで、何度も失敗を繰り返した。それでも、父の背中を思い出すたびに、エリカは立ち止まることなく課題に取り組んだ。
「木工所の家具って、本当に素敵なんだから、それをもっと多くの人に知ってもらいたい。」
その思いが、エリカの原動力だった。
日中の仕事も、エリカにとっては学びの場だった。地元の食品加工会社での業務は、商品のパッケージデザインや売り場作りを手伝うことが多かった。
「この商品、もっと目立つパッケージにすれば売れそうですよね。」
エリカの意見に、上司が思わず頷く。
「確かにそうだな。試しにやってみるか。」
エリカが提案した新しいパッケージは、小さなデザイン変更だったが、売上が目に見えて向上した。
「自社の強みを活かすことが大切なんだ。」
その経験から、エリカは自社製品を知り、強みを見極めることの重要性を学んだ。これは後に、大正精肉店の架純を支える際に役立つことになるスキルの礎となった。
夜間学校での学びが進むにつれ、エリカの中にはある思いが強くなっていった。それは、渡辺木工所をWEBマーケティングで支えたいということだった。
「お父さんはいいものを作ることにかけては一流だけど、それを売り込むのが苦手なんだよね。」
エリカは自分の学びを活かし、木工所を新たな形で支えたいと考えていた。しかし、父にその思いを打ち明けることはできなかった。
「そんなの無理だ」と言われるのが怖かったからだ。それでも、エリカは静かに準備を進めていった。
WEBデザインを学ぶ中で、エリカはマーケティングの基本的な考え方にも触れる機会があった。講師が何気なく言った一言が、エリカの心に深く残った。
「どんなに素晴らしいデザインでも、時流に合わないものは成功しない。大切なのは、自社の強みを活かし、それを必要としている人に届けること。」
その言葉を聞いたエリカは、自分が作りたいのは「ただの美しいサイト」ではなく、「木工所の強みを活かし、多くの人にその魅力を伝えるサイト」だと気づいた。
「お父さんの家具には、まだまだ可能性がある。」
エリカの中で、木工所への思いがますます強くなっていった。

エリカの明るさは、専門学校でも職場でも、周囲を元気づける存在だった。夜間学校のクラスメイトが課題に行き詰まっていると、エリカは自然と声をかけた。
「ここをこうしたら、もっと良くなるかもよ。」
彼女の助言に救われたクラスメイトが、感謝の言葉を伝えると、エリカはいつものように笑顔で答えた。
「私もまだ勉強中だから、一緒に頑張ろうね!」
夜間の授業が終わるころ、クラスメイトが疲れた表情を浮かべていると、エリカはカバンから突然カステラを取り出し、「こんな夜更けにカステラって罪深いけど…糖分は正義!」と笑顔で配り始めた。周囲からは「エリカちゃん、それ太るやつ!」とツッコミが飛ぶが、みんな嬉しそうに笑い合う。
この「癒やし」としての姿勢は、後にフォレスト中小企業診断士事務所で多くの経営者を支える原点となる。
専門学校での学びを進める中で、エリカは木工所を支える方法が少しずつ見えてきた。それは、自分が学んでいるWEBデザインやマーケティングの知識を活かし、木工所の魅力を発信することだった。
「お父さんが作る家具は、もっと多くの人に愛されるべきだ。」
その思いを胸に、エリカは今日も夜遅くまでパソコンに向かっていた。
エリカの学びの旅は、彼女自身と家族の未来を切り開く大切な一歩となっていた。
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