
第23話「攻め続けるための確信 - 数字が示す成長と未来」
冬の朝、店頭のガラス越しに差し込む光が、揚げたてのコロッケを照らしていた。開店の準備に追われる勝氏の手は軽やかだ。これまでの苦悩や努力を重ねた日々が、確かな成果となって返ってきた――それを実感する毎日だった。
「今日も欠品は絶対出さないようにしないとな。」勝氏がつぶやくと、雅子がレジから顔を上げて微笑んだ。「大丈夫よ。ちゃんとデータ通りに準備してるから。」
彼らの表情にはこれまでになかった落ち着きと余裕がある。大正精肉店は、月次収支で単月黒字を達成していた。テレビ放送やEC販売が大きなきっかけにはなったが、それだけではない。店頭の欠品解消や生産性の向上、そして確実に積み上げてきた新規顧客との関係――それらが揃った結果だった。
数字が示した確信
月次収支が初めて黒字に転じた日、フォレスト中小企業診断士事務所のメンバーが集まった会議室は、いつになく明るい雰囲気に包まれていた。
「今月の営業利益、50万円の黒字です。」架純が報告書を手に、少し照れたように笑う。
「おいおい、本当かよ!」利夫が驚きの声を上げた。彼の手には、厨房での仕込みの途中で外してきたエプロンが握られていた。
「間違いありません。」タカシが書類を指し示しながら力強く言った。「居酒屋部門の収益改善、オンライン販売の伸び、そして店頭の欠品解消。全てが数字に表れています。」
勝氏は資料を手に取り、じっと眺めた。これまで数字を見るのが苦手だった彼が、静かに口を開く。「…これが俺たちの努力の結果か。」
誰もがその言葉の重みを感じた。以前は、ただ目の前の仕事をこなすだけで精一杯だった。だが今は違う。月ごとの収支が見えることで、何が利益につながり、どこに課題があるのかが明確になった。
「数字に基づいた経営」。それは勝氏にとって、職人から経営者へと変わる大きな一歩だった。
次なる挑戦 - 確固たる顧客基盤を築く
「ここで気を緩めたら、一時的な黒字で終わっちゃいますよ。」タカシが珍しく少し厳しい口調で続けた。「今後は、もっと攻めの営業活動が必要です。」
「例えば?」勝氏が問いかける。
タカシは資料をめくり、事務所のホワイトボードに数字を書き出した。「EC販売の顧客リストをもっと活用しましょう。リストを元に、定期的に情報発信を続けるんです。新商品の紹介や、季節のキャンペーン、そして購入後のアフターフォロー――こうした地道な取り組みが、リピーターを生みます。」
「リピーターか…」勝氏は考え込むように呟く。「確かに、一度買ってもらったお客さんがまた来てくれたら、それほどありがたいことはないな。」
「そのためにも、顧客リストの管理はしっかりやります。」架純がノートパソコンを開きながら言った。「クーポンやメルマガを定期的に発信して、興味を持ってくれたお客様には追加の商品を提案する――そうすれば、もっとファンが増えますよ。」
「架純、頼もしいな。」利夫が感心しながら頷く。「なら、俺は新商品を考えるわ。次のヒット商品でリピーターにドカンと喜んでもらおう。」
タカシが笑いながら補足する。「それと、卸売り拡大のための御用聞き営業活動も強化しましょう。リピート受注を増やすためには、前にリストアップした事業者さんに継続的に接触するのが一番です。一度でも仕入れてくださった方には最低でも3ヶ月に一度顔を出し、丁寧に提案していきましょう。」
勝氏は一瞬ためらいの表情を浮かべたが、すぐに力強く頷いた。「分かった。攻める経営、やってみる。」
家族の強みと絆
勝氏の言葉が事務所に響いたその瞬間、誰もが顔を見合わせ、笑顔になった。大正精肉店の家族には、それぞれの強みがある。雅子の地道な経理、架純のデータ分析と発信力、利夫の現場力、そして勝氏の職人としての技――その全てが重なり合い、今の黒字化を実現させた。
「みんながいるから、ここまで来られたんだ。」勝氏の言葉に、家族全員が頷く。
その後、家族全員で会議室のホワイトボードに書かれた次の目標を見つめた。「リピーター1万人獲得」「月間売上150%アップ」。目標は高いが、それを達成する道筋は、もう見えている。
経営改善の着眼点と支援のポイント
定期的な情報発信:EC顧客リストを活用し、鮮度の高い情報を発信し続けることでリピーターを増やす。
アフターフォローの徹底:受注先への丁寧なフォローと新規商材提案で信頼関係を強化。
攻めの営業活動:既存のつながりを最大限に活かし、新規受注を確実に増やす。
家族経営の強み:それぞれの役割を活かし、目標達成に向けて協力し合う。
未来への確信
会議の終わり、フォレスト事務所のメンバーを見送りながら、勝氏は小池診断士に向かって言った。「先生、俺たちはまだまだ成長できるな。」
小池診断士は静かに微笑みながら答えた。「勝さんたちの努力がある限り、どこまででも行けますよ。次の目標も、一緒に達成しましょう。」
外に出ると、冬の空は晴れ渡り、青く広がっていた。勝氏は店を振り返り、その看板を見つめる。「ここからだな…」とつぶやくと、その手には職人の誇りと経営者としての新たな自信が宿っていた。
大正精肉店の未来は、確実に動き出していた。
Comments