第19話「家族経営の強みを発揮 - 自ら動き出す瞬間」
設備投資を成功させた大正精肉店。新しい機械の導入で生産性が飛躍的に向上したが、次なる課題は「コスト削減」だった。売上を伸ばしつつ、無駄を省いて利益を確保する――それは長く店を守り続けるための重要な一歩だった。
しかし、何十年も続く慣れ親しんだ取引先や仕入方法を見直すことは、勝氏にとって大きな抵抗感を伴うものだった。「何も変えずに続けてきたことを、今さらどうやって変えるんだ？」と戸惑う勝氏に、小池診断士は押し付けることなく、静かに寄り添いながら変化を促していった。
コスト削減への小さなきっかけ
フォレスト事務所での打ち合わせの席、小池診断士は損益データを示しながら、こう提案した。「現在の仕入れコストを定期的に見直し、相見積もりを取得することで、適正価格を確認できるようになります。」
勝氏は腕を組みながら、「長年の取引先との関係があるからな…。そんな簡単に値段の話をするわけにはいかない」と眉をひそめた。
小池診断士はその言葉に一切反論せず、静かに頷いた。「確かに、信頼関係を築いてきた取引先との関係は大切です。ですが、相見積もりを取ることで、今の取引条件が妥当だと分かれば、その関係をさらに強化するきっかけにもなると思います。」
勝氏は少し考え込んだが、すぐには納得できない様子だった。「本当にそれでいいのか…。俺にはまだピンとこないな。」その姿を見た小池診断士は、それ以上押し付けることはせず、話題を変えた。「まずは、現在の仕入れ先との会話から始めてみましょう。数字を整理しながら、一緒に進めていければと思います。」
家族が動き出す
家族全員が参加した次の会議では、小池診断士が「仕入れコストの見直しは、家族みんなで役割を分担すれば負担が減ります」と提案。架純がスプレッドシートを用意し、仕入れ項目ごとの金額を整理すると、思わぬ発見があった。「そういえばコピーの保守って、15年くらいそのままになっていたかも。もしかしたらもっと安くなるかもしれないね」と雅子が気づき、具体的な代替先の候補を挙げた。
利夫も「梱包資材とか消耗品って、適当に選んでるところがあるかもしれないな。ちょっと探してみようか」と前向きに提案。家族全員が自然と自分の役割を引き受け、動き出していた。
小池診断士は、その様子を見守りながら、「家族で取り組むことで、経営全体の視点が広がりますね」と話し、勝氏の反応を伺った。勝氏は静かに頷き、「じゃあ、試しにやってみるか」と、ついに一歩を踏み出した。
小さな成果が変える心境
数週間後、架純が整理したデータを基に、仕入れ先との交渉を進めた結果、合計で数万円の削減が実現した。「これは、年単位で見れば大きな効果があるわ」と雅子が笑顔で話すと、勝氏も「意外と話してみると、取引先も前向きに応じてくれるもんだな」と驚きを隠せなかった。
その後も家族で協力し、梱包材や原材料の見直しを進める中で、利夫が「こんなに簡単に変えられるなら、もっと早く取り組めばよかったな！」と笑う姿に、勝氏も思わず苦笑した。「まぁ、今さら言っても仕方ないが、これを続けていくしかないな。」
フォレストメンバーの支え
この取り組みの裏には、フォレスト事務所のメンバーのサポートが光っていた。タカシは仕入価格のデータ分析を進め、「この価格帯で交渉すれば、他社と同水準になります」と具体的な指針を示した。
エリカは、取引先とのメール対応や文書作成を手伝いながら、「少しずつ良い方向に進んでいますね！」と家族を励ました。その笑顔に雅子が「本当に、いつも助かっています」と感謝を口にする場面もあった。
森診断士は、全体の進捗を管理しながら、「コスト削減は地道な作業ですが、着実に効果が出ます。一つひとつ進めていきましょう」と冷静なアドバイスを続けた。
家族経営の強みを実感
ある晩、勝氏がぽつりと漏らした。「最初は正直、仕入先の話を変えるなんて難しいと思った。でも、家族や先生たちが一緒に動いてくれたおかげで、俺も腹をくくれたんだ。」その言葉に雅子は「家族みんなが力を合わせた結果よ」と微笑み、架純も「次はもっと大きな改善に挑戦してみよう」と意欲を見せた。
小池診断士は最後にこう話した。「変化を受け入れるのは大変ですが、勝さんが一歩を踏み出したことで、皆さんの取り組みが実を結びましたね。これが大正精肉店さんの強みそのものだと思います。」勝氏は深く頷き、「これからもよろしく頼む」と静かに答えた。
経営改善の着眼点と支援のポイント
変化への寄り添い：強制するのではなく、社長が納得するまで伴走して取り組みを促進。
相見積もりの活用：仕入先との関係を尊重しつつ、定期的な価格確認を実施。
家族の役割分担：家族全員が協力し、コスト削減の成果を共有することで一体感を向上。
家族の絆と支援者たちの力で、新たな改善の道を歩み始めた大正精肉店。次回は、この成果を活かした新たな販路開拓への挑戦が描かれる。変化を恐れず一歩を踏み出した家族の挑戦は、さらに力強い未来を切り拓いていく。
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