
第17話「攻めの経営への挑戦 - 3階活用と生産性向上」
冬の陽が穏やかに差し込む大正精肉店の2階会議室。テーブルには数枚の図面と、勝氏が使い込んだメモ帳が広げられていた。フォレスト中小企業診断士事務所のメンバー――小池診断士、タカシ、エリカ、そして家族全員が集まり、真剣な面持ちで資料に目を落としている。
「3階部分を活用すれば生産ラインがもっと効率化できる。それに、小型のエレベーターを設置すれば、重い荷物を持ち運ぶ作業の負担も軽減できる。」小池診断士がそう切り出した。
勝氏は腕を組んだまま、図面をじっと見つめる。改装案、そして新しい設備の導入――総額は20百万円に及ぶ。いくら将来を見据えた投資とはいえ、その金額は小さな精肉店には重くのしかかる。「…分かってるさ。だけど、そんな大金、どうやって用意すればいいんだ?」
現場が示した真実
話し合いのきっかけは架純がまとめたデータだった。彼女が1階の製造現場を見回しながら、淡々と指摘したのだ。「ソーセージ、コロッケ、メンチカツ――この3つは店の看板商品です。でも、手作業に頼りすぎていて、供給が追いついていません。」
「そんなの今さらだろうが。」勝氏はつい語気を強めるが、架純は冷静だった。「データを見てください。週末には、来店したお客様の約2割が欠品で帰ってしまっているんです。」
その瞬間、場に張り詰めた空気が漂った。雅子が小さな声で呟く。「せっかく来てくださったのに、残念な思いをさせているんですね…。」
利夫が厨房から駆けつけ、少し顔を赤くしながら言った。「兄貴、現場は限界だ。牛すじ煮込みや新メニューも増やして、居酒屋部門は好調だけど、今のままじゃ俺たち、手が回らねぇよ。」
タカシが言葉を挟んだ。「現場の限界は、数字にも現れています。生産性の向上なしに、売上アップは難しい。小池先生と一緒にシミュレーションしましたが、新設備が入れば、ソーセージの生産性は約8倍、コロッケやメンチカツは4倍にまで向上します。」
勝氏は黙ったまま、家族の顔を順に見つめた。そこには、確かな覚悟が宿っている。
挑戦の一歩――資金調達の壁
「まずは補助金の活用を考えましょう。」小池診断士が冷静に提案した。「エリカさん、申請書類の作成をお願いできますか?」
「もちろんです!」エリカが明るい声で答え、早速作業に取りかかる。
一方、タカシは勝氏を伴い、メインバンクとの交渉に臨んだ。しかし、担当者の言葉は冷たかった。「現在の信用状況では、この規模の融資は難しいです。」
事務所に戻る道すがら、勝氏がため息を漏らす。「やっぱり無理か…。店の未来を守るためとは言え、そんな金、どうやって…。」
タカシは拳を握りしめ、前を向いて歩き続けた。「まだ諦めるのは早いです。僕らには次の手がある。」
光明――補助金採択と保証協会の力
補助金の申請は、エリカの粘り強いサポートにより、無事に受理された。そして数週間後、待望の採択の知らせが届いた。「採択されました!これで、設備投資の2/3が補助金で賄えます!」
その報告に、家族全員が歓喜の声を上げる。雅子が涙ぐみながら「これで少し希望が見えましたね」と言うと、勝氏も静かに頷いた。「だが、残りの資金をどうするかだ。」
そこで小池診断士が新たな提案を持ち出す。「保証協会の別枠を使える可能性があります。そして、そのためには国の経営力向上計画の認定を受ける必要があります。」
小池診断士は懇意にしている保証協会の担当者と直接面会し、熱意を伝えた。「大正精肉店は地域に根ざした老舗です。経営改善に真剣に取り組んでおり、今回の設備投資は未来への重要な一歩です。」
保証協会の担当者もその姿勢に共感し、別枠の保証に向けて協力を約束した。
家族の結束――攻める経営の覚悟
再び会議室に集まった家族とフォレスト事務所のメンバー。小池診断士が認定取得の手順を説明し、勝氏を見つめる。「ここまで来たら、攻めるしかありません。」
勝氏はしばらく黙り込んだ後、口を開いた。「やるしかないな。これが今の俺たちにできる最大の挑戦だ。」
その言葉に架純が笑顔で「私が経営力向上計画の書類をまとめます!」と声を上げ、利夫も「俺は現場でしっかり作業を回す。新しい設備が来ても、すぐに使いこなせるように準備しておくよ!」と力強く宣言する。
雅子も静かに言った。「これから先、もっと多くのお客様に笑顔で帰っていただけるように、私も店頭を守ります。」
小池診断士、タカシ、エリカはその光景を見守りながら、深く頷いた。
経営改善の着眼点と支援のポイント
3階活用と設備投資:生産ラインの強化と小型エレベーター導入で効率化。
補助金の活用:設備投資補助金を申請し、資金負担を軽減。
保証協会との連携:経営力向上計画を取得し、融資を確実に。
家族の結束:それぞれが役割を担い、経営課題に向けて一丸となる姿勢。
攻める未来へ
「俺たちはもう後戻りはしない。」勝氏のその言葉は、家族全員の心に深く刻まれた。新しい設備、3階部分の有効活用――それらが整えば、大正精肉店は次のステージへと進むことができるだろう。
フォレスト中小企業診断士事務所の支援のもと、家族の覚悟と努力は、確かな未来への道を切り拓き始めた。挑戦の先には、彼らがまだ見ぬ新しい景色が待っている。
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