
第15話「数字との向き合い方を学ぶ - 家族で挑む経営改善の第一歩」
フォレスト中小企業診断士事務所の支援が始まり、大正精肉店の家族は初めて数字を通じて経営に向き合うことになった。勝氏にとって、数字はこれまで感覚的にしか捉えたことがない未知の領域だった。しかし、この日はその考えを変える大きなきっかけとなる日だった。
初めての勉強会
秋の柔らかな陽光が差し込むフォレスト事務所の会議室に、勝氏と家族が揃った。経理を担当する雅子、IT業務を担う長女の架純、居酒屋部門の責任者である弟の利夫も参加していた。
会議の冒頭、タカシが爽やかな笑顔で語り始めた。「今日は、損益計算書と貸借対照表を使って、お店の数字を一緒に見ていきましょう。」金融機関出身のタカシは、財務分析が得意で、数字を直感的に分かりやすく伝える技術に長けている。その説明を聞いていた勝氏の目に、どこか疑いと期待が混じった色が見えた。
ホワイトボードに描かれた「貸借対照表(B/S)」と「損益計算書(P/L)」の図を指しながら、タカシは話を続ける。「損益計算書は、お店の成績表。そして貸借対照表は、お店の健康診断書です。これを見れば、どこを改善すればお店が元気になるか分かります。」
勝氏は腕を組み、じっとホワイトボードを見つめた。「俺には難しそうだな…。こんなの見たところで、何に役立つんだ?」とつぶやいた。
タカシは穏やかに笑みを浮かべ、「大丈夫です。最初は誰でもそう思います。でも、一緒に見ていけば、数字が持つ意味が必ず分かってきますよ。」と力強く答えた。その言葉に、勝氏は少しだけ気持ちを開き始めたようだった。
家族それぞれの視点とタカシの支援
勉強会が進む中、家族それぞれが異なる視点から数字を捉え始めた。画面に映し出された実際の決算書を見て、雅子がぽつりと口を開いた。「この数字、私が毎月入力しているものですね…。こうして見ると、今までは単純作業としか思えなかったですが、どこにどれくらいお金を使っているか、ハッキリするように感じます。」
「このデータを基に、どの商品がどれだけ利益を生んでいるか分析できますよ」とタカシが応じると、雅子は静かに頷いた。
一方、架純は興味津々の表情で数字を眺めていた。「これ、在庫管理や売上データともつながりますよね。もっと効率的に分析できるかもしれない。」その言葉に、タカシは「さすがですね!その視点が大事です。」と声を弾ませた。
利夫は最初、数字に戸惑いを隠せなかった。「俺には、どうにもピンとこないなぁ…」と苦笑いを浮かべる。そんな利夫に、タカシは寄り添うように「では、居酒屋部門の原価率を見てみましょう。この数字を理解するだけでも大きな気づきがありますよ」と具体例を示した。
利夫は画面を覗き込みながら、「なるほど…。これなら、次の仕入れで改善できるかもしれないな」とつぶやき、前向きな姿勢を見せ始めた。
タカシの情熱と金融機関時代の経験
タカシは、金融機関時代から「数字の魔法使い」として同僚や顧客に一目置かれる存在だった。財務分析を用いて企業の課題を見つけ、改善策を提案する姿勢が評価され、時には数字嫌いの経営者を数字好きに変えてしまうことさえあった。
「数字は嘘をつきません。でも、その数字が伝えているメッセージを読み取る力が必要なんです」とタカシはよく話す。この日もその情熱は変わらず、大正精肉店の家族に数字の魅力を伝えようと全力を注いでいた。
数字がもたらす気づき
勉強会の終盤、タカシが分析した結果をもとに、「このメニューは原価率が高めですが、こちらは利益率が良好ですね」と示すと、勝氏は「そんなところまで分かるのか…」と驚きを隠せなかった。
「まずは、商品ごとの原価を細かく把握し、それを改善することから始めましょう」とタカシが提案すると、架純が「先月1ヶ月分のデータをまとめてみます」と積極的に応じた。
勝氏は、目の前で数字が意味を持ち始めた感覚に、少しずつ希望を見出していた。「数字ってのは苦手だが、これを活かせるなら、やる価値はありそうだな」と静かに語るその声には、未来への一歩を踏み出す覚悟が含まれていた。
経営改善の着眼点と支援のポイント
財務基礎の教育:損益計算書と貸借対照表の基礎を丁寧に解説し、数字の重要性を共有。
部門別分析:部門ごとに原価率や利益率を把握し、改善可能なポイントを発見。
家族の意識改革:数字に対する家族の理解を深め、経営改善への積極的な姿勢を醸成。
数字への意識が芽生えた大正精肉店は、次のステップに進む準備を整えつつあった。家族全員が新たな課題を共有し、協力して取り組むこの姿勢は、やがて経営の新しい形を作り上げていく。次回は、具体的な課題解決への取り組みが描かれる。
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