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小説 フォレスト中小企業診断士事務所〜伴走者たちの協奏曲〜第14話

小池 俊介

更新日:2月25日



第14話「現場視察で見えた課題 - 伝統と未来のはざまで」

秋の朝、フォレスト中小企業診断士事務所の一行が大正精肉店の現場視察に訪れた。三階建ての建物は歴史を感じさせる佇まいで、正面には「大正精肉店」の看板が堂々と掲げられている。しかし、その建物の中には課題が山積していた。


店と工場に広がる課題の影

勝氏が案内する店内には、所狭しと商品が並べられ、地元の人々に親しまれてきた面影が残る。しかし、「最近は品薄が多いね」「あの揚げ物、いつも売り切れだよ」といった声がちらほら聞こえてくる。歴史ある店舗の品格を保ちつつも、需要に応えきれていない現実が浮き彫りになった。


勝氏が懐かしそうに「昔は、このコロッケが飛ぶように売れたもんだ」と語る。その言葉には、職人としての誇りと過去の栄光への郷愁が交じっていた。だが、工場に足を踏み入れると、そこで見えたのは手作業に頼り切った現場と、十分に活用されていない設備だった。


「これはどうされているんですか?」とエリカが指差したのは、工場の片隅に置かれた大型機械。勝氏は眉間にしわを寄せながら、「一度導入したものの、操作が難しくて結局使ってないんだ」と苦笑する。投資はしても、その成果を活かしきれない現場の現実が浮かび上がった。


また、3階部分は完全に荷物置き場と化していた。埃をかぶった古い機械や箱が山積しており、そこに有効活用の余地があるとタカシが気づいた。「これだけのスペースをもっと有効に使えれば、全体の効率も改善できそうですね」と指摘すると、勝氏は「3階かぁ。長いことこんな状態になっていて・・・すっかり頭から抜けていたな」と唸った。


架純の挑戦 - 次世代の希望

視察の最後に現れたのは、勝氏の長女、架純だった。勝氏の自慢の娘で、店のIT業務を担っている。彼女の姿は、店の未来を象徴するようだった。「少しでも両親を助けたくて、簡易的な在庫管理やPOSシステムを導入しています」と語る彼女は、柔らかい笑顔の奥に芯の強さを感じさせた。


架純が見せたのは、自作のエクセルによる在庫管理表だった。手書きの記録をデータ化し、商品ごとの在庫や売上を整理していた。しかし、それは限られた時間とリソースの中で、孤軍奮闘して作り上げたものだった。「これでなんとか現状を維持していますが、まだ改善の余地が大きいと思います」と語る彼女の目には、不安と決意が交じり合っていた。


小池診断士は、その表を見ながら「非常に分かりやすいですね。これを基に、効率的なシステムを構築すれば、在庫管理が飛躍的に改善できそうです」と評価した。その言葉に架純は少し照れた表情を浮かべながら、「少しでもお役に立てるなら、やりがいがあります」と答えた。


勝氏も「お前がいなければ、もっと酷い状況だった」と語り、架純の肩を軽く叩いた。その姿は、不器用ながらも娘を心から誇りに思う父親そのものだった。


フォレスト事務所での打ち合わせ

視察を終え、フォレスト事務所ではすぐに改善案が話し合われた。「大正精肉店には120年の歴史と、地域に根付いた信頼があります。この伝統を損なわずに効率化を進めるには、架純さんのITスキルを活用するのが鍵になります」と森診断士が語る。


「例えば、架純さんの在庫管理システムを発展させて、売上データと連携する形にすれば、廃棄を減らし利益率を向上させることが可能です」とタカシが提案。エリカも「3階のスペースを活用すれば、現場全体の動線を改善できるかもしれません」とアイデアを出した。


小池診断士は、現場視察で得た課題を整理しながら語った。「まずは在庫管理を基盤として改善を進めましょう。次に、現場全体の動線やスペース活用を計画的に改善します。そして、これらが整ったところで新商品の開発や販路拡大に取り組む流れです。」


経営改善の着眼点と支援のポイント

次世代の力の活用:架純のITスキルを軸に、在庫管理と売上データの連携を進める。

スペースの再活用:未活用の3階部分を有効活用し、動線と生産性を改善。

伝統の価値と革新の融合:120年の歴史を基盤に、新たな経営体制を構築。


大正精肉店は、伝統と革新の間で揺れ動きながらも、家族の絆とフォレスト事務所の支援を糧に、一歩ずつ前進を始めた。次回は、在庫管理の改善から見えてくる新たな可能性が描かれる。伝統を守りながら進化する家族経営の物語が、ここからさらに動き出す。

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