第4話「A社の限界利益率管理の改革に挑む」
A社の支援が始まってから1か月ほど経ったある日、フォレスト中小企業診断士事務所では、次なる課題である「限界利益率の管理」に取り組むための準備が進められていた。A社は精密な部品を製造する優れた技術力を持ちながら、プロジェクトごとの利益率管理が徹底されておらず、収益性が見えにくいことが問題となっていた。
相談室では、小池診断士がタカシに説明していた。「限界利益率というのは、プロジェクトごとにしっかり管理していく必要がある。A社さんのようにプロジェクト単位で受注額が大きい場合、少しのコストオーバーが全体の利益を大きく削ってしまう可能性があるからね」
タカシは真剣な表情で頷き、「なるほど、確かに。大きな案件だからこそ、細かなコスト管理が重要ですね」と応じた。タカシは自身も金融機関出身の経験から、資金計画や管理の重要性を深く理解しているだけに、この案件への支援にも熱が入っていた。
そこへエリカが、お茶を入れてそっと相談室に現れた。「コスト管理がしっかりできるようになれば、経理部長さんもきっと安心しますね」と穏やかに微笑むエリカ。彼女は支援の裏方としてのサポートに徹しているが、支援のひとつひとつに心を込めて見守っていた。
準備が整ったところで、小池診断士はA社を再訪した。会議室には社長と経理部長、そしてプロジェクト管理を担当する幹部社員たちが集まり、緊張感が漂っている。小池診断士は、まず和やかな空気づくりを意識して、少し冗談を交えながら会話を始めた。硬かった彼らの表情が徐々にほぐれていく。
「さて、今日は皆さんと一緒に、A社さんの収益をしっかり管理する仕組みについて考えていきたいと思います。まずは、限界利益率についてですが、これは“プロジェクトごとの収益性”を把握するための指標です」
小池診断士がホワイトボードに「限界利益率=収益率」と書き込み、説明を続けた。「例えば、あるプロジェクトにかかる直接コストや変動費をきちんと見える化して、利益がどれだけ出ているのかを定期的に確認することが必要です。そのための管理ツールとして、“限界利益早見表”を導入してはどうでしょうか?」
「限界利益早見表ですか?」と興味を示したのは、プロジェクト管理を担当する幹部社員だ。彼らもまた、管理体制の改革には意欲的で、新しい管理方法がどのように役立つのかに関心を持っている様子だった。
「はい。この早見表を使えば、各プロジェクトの変動費予算を簡単に把握でき、承認もスムーズに進められます。たとえば、特定のプロジェクトが予算オーバーしそうな時には、すぐに見直す判断ができるようになります」
幹部社員や経理部長も「これは助かるかもしれない」と納得した表情で頷き始めた。A社はこれまで、技術的な工程管理は優れていたものの、コストと収益性に関する管理体制が整っていなかった。限界利益早見表の導入によって、収益性の見える化が進み、今後の管理が確実に楽になる見通しが立ったのだ。
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面談を終えた後、小池診断士はフォレスト事務所に戻ると、タカシがさっそく駆け寄ってきた。「小池さん、A社さんどうでしたか?限界利益率の管理、うまく進められそうですか?」
「そうだね、幹部の皆さんもかなり前向きだったよ。限界利益早見表を導入することで、収益の管理がだいぶ楽になると思う」と小池診断士は微笑んだ。
「よかった…!俺も早見表、もっと勉強しておきます。これならA社さんだけじゃなく、ほかの企業さんにも使えそうですよね」とタカシは熱心にメモを取りながら話を聞いている。支援の道具が一つずつ増えていくことに、タカシの目が輝いていた。
そんなタカシを見てエリカが「タカシ君、たくさん勉強するのはいいけど、ちゃんと休みも取ってね」と微笑みながら言った。エリカの温かい気配りに、事務所の仲間たちも自然と気持ちが和む。フォレスト中小企業診断士事務所には、こうした温かいチームワークが支援の原動力となっていた。
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経営改善の着眼点と支援のポイント
-限界利益率の可視化:「限界利益早見表」を導入し、プロジェクトごとの収益性を常に把握できるようにする。
-コスト管理の強化:プロジェクト管理体制を整備し、収益性に応じた柔軟な見直しができる仕組みを構築。
-チームでの支援体制:フォレスト事務所のメンバーのチームワークを活かし、サポート体制を充実させる。
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